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岡山地方裁判所 昭和61年(ワ)326号 判決

原告

笠原克美

被告

日本道路公団

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、金四六万七九八〇円及びこれに対する昭和五九年六月一五日から右完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  主文と同旨

2  仮執行免脱宣言

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、普通乗用自動車(以下「原告車」という。)を運転し、昭和五九年三月二九日午前九時三四分頃、岡山県阿哲郡哲西町大字矢田付近のほぼ直線の緩い上り坂となつている中国縦貫自動車道下り二三九・三キロポスト付近(以下「本件事故現場」という。)の追越車線を時速約一〇〇キロメートルで走行中、右追越車線上の原告車の前方には二、三台の車両が走行していたが、原告車は、その直前を走つていた山田和義運転の普通乗用自動車(以下「山田車」という。)と約一〇〇メートルの車間距離を維持しつつ走行していたところ、前方に砂塵が上がつた。このため、原告は、原告車のアクセルを緩め、時速約八〇キロメートルに減速し、さらに山田車との距離が詰まつてきたので、山田車が右砂塵に差し掛つた時点で、原告は、フツトブレーキを軽く踏んで時速約六〇キロメートルに減速し、山田車との車間距離を五〇ないし六〇メートルに保つようにして進行し、原告車も山田車に続いて右砂塵に進入した。ところが、その直後、原告は、右砂塵により一寸先も見えない状態となり、次の瞬間、砂塵の中に山田車の後部バンパーとトランク後端部のみが辛うじて見えたので、とつさにフツトブレーキを踏み込み、ハンドルを左に切つたが、間に合わず山田車に追突した。

2  本件事故は、原告の前方の追越車線上を低速で清掃作業をしていた大型道路清掃車(車体後部両端の巨大な円型ブラシ(以下「ガツターブラシ」という。)各一個と車体後端部の巨大なローラー型ブラシ(以下「メインブラシ」という。)が一個とを同時に回転させて路上の土砂等をかきあげ、これを車体内部に取り込んで路上の清掃作業を行う車両)(以下「スイーパー」という。)が多量の砂塵を巻き上げ、これによつて後続車から前方が全く見えなくなる「真昼の暗黒」ともいうべき状態を発生させたため、砂塵の中に進行した黒田弘子運転の普通貨物自動車(以下「黒田車」という。)が、砂塵の中でスイーパーを発見して急停止したところ、黒田車の後続車である山田車が砂塵の中で黒田車を発見して急停止の措置を採つたが間に合わず、黒田車に追突し、その後続車である原告車も、前記のとおり、山田車に追突したものである。

3  被告は、本件道路の料金を徴収し、道路の維持、管理を行う法人であるが原告は、昭和五九年三月二九日、被告との間において、中国縦貫自動車道落合インターチエンジから広島方向に向けて高速自動車道路を通行する契約を締結したのであるから、被告は右契約に基づいて原告に対し安全配慮義務を負つているのであり、本件事故は右義務に違反したもので、債務不履行責任を負う。その義務違反の内容は、以下のとおりである。

(一) 予測義務違反

スイーパーによつて道路清掃作業を実施する際、殊に本件のように大量の降雪及びそれに伴う通行車両のチエーン着装により生じた多量の粉塵(塵芥)に覆われた道路面の清掃を実施するに際しては、被告には、その作業によりどの程度の砂塵が舞い上がり、場合によつてはその砂塵によりスイーパー自体が砂塵の中に埋没して後続の一般通行車両の進行をどの程度妨げるかを予め実験的に作業走行をしてこれを確認し、個別具体的状況下の作業における危険発生を予測すべき義務がある。しかるに、被告は融雪後の実験的作業走行を実施せず、単に、道路清掃作業担当助役が道路巡回の際に、レーンマークの白色ペンキ部分が粉塵に覆われて見えにくくなつているか否かを目視で判断するという何ら根拠のない方法に基づいて多量の砂塵の舞い上がりを予測するという方法を採つたため、実験的、科学的予測義務に違反した。

(二) 予防義務違反

(1) 被告が、前記科学的、実験的予測を欠いていたとしても、一般的、常識的にスイーパーの清掃作業により生じた砂塵によつて後続車の視界が妨げられる事態の発生を予測して、危険な状況が発生するのを予防するため、散水車による散水作業を先行させて、一般後続車両の通行の安全を確保する義務があつた。しかるに、被告は、本件作業の半月前の昭和五九年三月一三日に行われたスイーパー作業(以下「前回の清掃作業」という。)においては、道路清掃担当者の個人的判断で散水車による散水作業を先行させたが、その後、本件事故当日までの間に、積雪三回合計一八センチメートル、降雪延べ二回合計八センチメートルがあつたにもかかわらず、第二回目の清掃作業である本件事故当日のスイーパー作業については、道路清掃担当者の個人的判断で散水車による散水作業を先行させなかつた。しかし、本件事故の発生した昭和五九年一月から同年三月までの積雪量は、延べ五一日合計四一七センチメートル、降雪量は延べ一九日合計九五センチメートルという記録的な大雪であつたことが、右判断を誤らせたのであつて、このような判断を道路清掃担当者の個人的判断に任せること自体が間違つており、被告としては、散水車による散水作業を先行させるべき場合の基準を設定すべきであつた。

(2) 被告においては、道路清掃作業担当助役や管理事務所長が、スイーパーの運転手及び助手に対し、スイーパー作業により砂塵が濃くなつたら直ちに作業を中止し、一般通行車両の通行の安全を阻害しないように注意すべき旨の指示を毎日のように出していたというが、このような方法による危険予測、危険防止は全く不合理である。即ち、スイーパー運転手は、作業前方の道路面を注視し、ガツターブラシを道路作業面に適切に接地しなければならないから、後方の安全を注視する余裕はない。また、スイーパーの運転手による後方確認は、右側のバツクミラーによる外に方法がないが、この方法では、スイーパー真後ろ部分の確認は不可能である。さらに、助手が後方確認をするとしても、左側のバツクミラーによるのであれば、スイーパー真後ろの安全確認は不可能であるし、助手席の窓から身を乗り出して後方を確認するとしても、スイーパー本体が車両後方に作る死角部分の確認は不可能である。

(3) 被告は、第一次的には散水作業を先行させてスイーパーを砂塵に埋没させないようにすべきであつたのであり、これを怠つた以上は、第二次的に、砂塵に埋没した低速で走行するスイーパーに後続の一般通行車両を突入させないために、ラバコーン等により作業区域を取り囲み交通規制を行うべきであり、或いはそのスイーパーが砂塵のために失つている標識、警告灯の機能を補完代替するものとして、標識車をスイーパーの後方に伴走させることが必要不可欠であつたが、被告は何らこのような措置を講じなかつた。

4  原告車は、本件事故によつて破損し、その修理費用として四六万七九八〇円を要したから、原告は右と同額の損害を受けた。

5  よつて、原告は被告に対し、債務不履行による損害賠償請求権に基づき、四六万七九八〇円及び右損害額の支払を催告した日の翌日である昭和五九年六月一五日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否及び被告の主張

1  請求原因に対する認否

(一) 請求原因1の事実のうち、原告が、昭和五九年三月二九日午前九時三四分頃、原告車を運転して本件事故現場を走行中に事故が発生したことは認めるが、原告が砂塵により一寸先も見えない状態となつたことは否認し、その余の事実は知らない。

(二) 同2の事実のうち、本件事故当時、スイーパーが本件事故現場の追越車線上で清掃作業をしていたこと、本件事故は三台の車が二重衝突したものであることは認めるが、スイーパーが多量の砂塵を巻き上げ、これによつて後続車から前方が全く見えなくなる「真昼の暗黒」ともいうべき状態を発生させたことは否認し、その余の事実は知らない。

(三) 同3ないし5は争う(但し、同3の事実のうち、前回の清掃作業に散水車を先行させたことは認める。)。

2  被告の主張

(一) 本件中国縦貫自動車道は、国土開発幹線自動車道建設法、高速自動車国道法、道路整備特別措置法等の関連諸法規に基づき建設された高速自動車国道であり、その道路管理者は建設大臣と定められている(高速自動車国道法六条)が、建設大臣は、被告をして高速自動車国道の新設又は改築等を行わせ、料金を徴収させることができる(道路整備特別措置法二条の二)。この場合、被告は当該道路の維持、修繕及び災害復旧を行い(同法四条)、道路管理者たる建設大臣に代わつて同法六条の二所定の権限を行使するものとされている。また、被告が同法に基づいてした処分等に不服のある者は、建設大臣に対して行政不服審査法による審査請求をすることができるものと定められている(同法二九条)。のみならず、被告が徴収する料金についても、その額は高速自動車国道の新設、改築その他の管理に要する費用で政令で定めるものを償うものであり、かつ、公正妥当なものでなければならず、その徴収は、期間が定められ(同法一一条、一四条)、国税滞納処分の例により強制徴収をすることができる旨定められている(同法二五条、道路法七三条一項ないし三項)から、右料金は道路使用の対価ではなく、税金類似の負担金と解される。したがつて、本件中国縦貫自動車道の利用関係は、公法上の法律関係であり、公共用物の自由使用と解すべきであるから、原告が通行契約を前提に債務不履行責任を主張するのは理由がない。

(二) 仮に、被告について契約上の安全配慮義務があるとしても、以下に述べるように、被告の安全配慮義務違反は全くない。

(1) スイーパー清掃における砂塵の飛散防止対策について

被告は、道路の状態を良好に維持し、塵埃等によつて交通障害を来すことを未然に防止するために、本件高速道路の清掃作業を岡山県高速道路サービス株式会社(但し、昭和五九年七月二六日、東中国道路メンテナンス株式会社に商号変更)(以下「道路清掃会社」という。)に依頼し、計画的にスイーパーによる清掃作業を行つている。その頻度は、予防的観点から、被告内部における維持管理要領(清掃編)において、追越車線側(中央分離帯側)については、本件の中国縦貫自動車道のように、一日の交通量が八〇〇〇台程度の道路の場合には、三週間に一回と定められており、本件事故当時においても、前回の清掃作業から一六日しか経過しておらず、右基準に合致していた。

追越車線側の清掃作業の方法は、スイーパーの進行方向右側のガツターブラシで塵埃をスイーパー中央へかき寄せ、これをメインブラシでホツパーへ運び上げる仕組となつている(スイーパーの構造、機能は別紙1ないし5記載のとおりである。)が、この場合、砂塵は路面に堆積している塵埃をかき寄せる際にガツターブラシ部分より発生する。このため、スイーパーの構造上も、スイーパー前部の散水装置からの散水によつて路面上の塵埃に湿り気を与え、更にガツターブラシ部分の散水装置から散水することによつて、砂塵が舞い上がることを防止する仕組みになつている。そして、被告は、梅雨時期等の湿気の特に多い時期を除いて、スイーパー備付けの散水装置を作動させながら清掃作業をしており、本件事故当時も通常どおり散水しながら清掃していた。その清掃行程は、(下り線)新見―東城、(上り線)東城―新見―北房―落合、(下り線)落合―北房―新見の各インターチエンジを順次結ぶ合計約一三一キロメートルの行程であり、スイーパーは毎回、出発地点である新見インターチエンジで貯水タンク(容量一・五キロリツトル)を満水状態にして出発し、毎分一二リツトルの散水をしながら清掃を行い(散水量を調節することはできない)、上り車線中の新見インターチエンジ及び折り返し地点の落合インターチエンジにおいて、それぞれ給水した上で作業している。本件事故当日も、道路清掃会社の従業員でスイーパーの運転手である金谷隆重(以下「金谷」という。)と、同じく助手の山口鉄也(以下「山口」という。)の両名が、午前八時五〇分、いつものように出発前に貯水タンクを満水にした上で新見インターチエンジを出発し、東城インターチエンジに向けて時速約三〇ないし三五キロメートルで下り車線の追越車線側の路面をスイーパー前部及びガツターブラシ部の散水装置で毎分一二リツトルの散水をしながら清掃作業をしていた。

原告は、被告が前回の清掃作業時にスイーパーの単独作業ではなく散水車を先行させて作業したことから、本件事故当時も散水車を先行させるべきであつたと主張する。しかし、砂塵により交通に支障を及ぼさないためには、通常スイーパーの散水装置からの散水で十分であり、散水車を先行させる必要性はない。もつとも、地理的条件や気象条件等により路面に堆積する塵埃の量が多く、スイーパーの散水装置では不十分な場合には、例外的に散水車を先行させることがないわけではない。被告においては、この塵埃の堆積状況を把握するため、定期巡回等を実施しているが、新見管理事務所内の中国縦貫自動車道においては、開通以来五年間、散水車を先行させる必要性は全くなく、スイーパーからの散水のみによつて安全に清掃作業を行つてきたのであり、過去において一般通行車両の交通に支障を来す程の砂塵がスイーパーから発生したことはなく、警察、一般通行車両からもそのような注意、苦情を受けたことは全くなかつた。

ところで、前回の清掃作業においては散水車を先行させたが、これは融雪後初めての清掃であり、しかも、その年の冬は例年にない豪雪でチエーン規制も特に多く、そのため、清掃前の定期巡回によつても、中央分離帯側に堆積した塵埃の量が過去に経験したことのない程の量であつたことから、安全を期して散水車を先行させた上でスイーパーによる清掃を行つたのである。そして、本件当日は、前回の清掃作業によつて、堆積した塵埃は取り除かれ、その後はチエーン規制もなく、降雨も三回(合計三四ミリメートル)あり、定期巡回によつても、路面に堆積した塵埃の状況は通常の清掃の場合と何ら異なるものではなかつたことから、通常どおりスイーパーからの散水だけで十分であると判断し、散水車を先行させることをしなかつたのである。

被告は、本件事故当時の清掃作業にあたり、万一交通に支障があるような砂塵が生じた場合には清掃作業を直ちに中止するようスイーパーの運転手らに対して指示しており、右運転手及び助手は、この指示を念願に置いてスイーパーのガツターブラシ部分及びメインブラシ部分から生じる砂塵の程度(その割合は約七対三である)をバツクミラーあるいは助手席の窓から身を乗り出して確認しながら作業していたものであり、その際、砂塵の量は多くなかつたので大丈夫と判断して作業を続行していたものである。

(2) 一般通行車両にスイーパーの存在を知らせるための措置等について

本件スイーパーは、高速道路上を時速三〇ないし三五キロメートルの低速で清掃作業を行うが、これは、スイーパーが道路を維持するため必要な特別の構造又は装置を有する自動車であり、且つ昭和五七年二月一六日、岡山県公安委員会へ道路維持作業自動車としての届出をしているのであるから、時速五〇キロメートル未満の速度で走行することも何ら法令に違反していない(道路交通法七五条の九、同法施行令一四条の二第一号)。もつとも、スイーパーは低速で走行するものであるから、被告は、中国縦貫自動車道下り線の新見インターチエンジ直前にある本線上可変標示板に「新見―東城間低速車作業中」と標示をなすことによつて一般通行車両にその旨注意を喚起していた(なお、原告は、右標示内容は視認していたが、地名に暗いため地名だけで作業区間を認識することは不可能であつたと主張しているが、右標示は、通常、作業中の区間の直前に標示されるのであり、しかも、各インターチエンジの直前には、インターチエンジ名の標示も掲示されているのであるから、右主張は全く理由がない。)。さらに、スイーパー自体についても、目立ち易い黄色の車体である上、高さも約三メートル二〇センチで遠方からでも十二分にその存在を確認できる構造となつており、しかも、清掃時には、備付けの標識装置によつて、「作業中」の文字、「↓」による走行車線への誘導を標示し、標識上部には一般通行車両の注意を喚起するための散光式警光灯を点滅させて清掃作業していたのであつて、一般通行車両が前方注視を怠らず安全運転義務を履行していたならば、十分スイーパーの存在を認識できるだけの措置を講じていた。

ところで、原告は、スイーパー清掃の際の規制方法につき、路面清掃のような低速作業をする場合には、ラバーコーン等により作業区域を取り囲み、交通規制を行うべきだと主張するが、このような規制方法は、規制箇所が一定している舗装工事、補修工事、事故処理等の場合に行う方法であり、本件のように規制箇所が移動する移動規制の場合には妥当しない。また、原告は、スイーパーの後方に標識車を伴走させるべきであると主張するが、前述したスイーパーの構造や標識装置に照らせば、その効用は標識車を伴走させる場合と何ら異ならず、むしろ標識車を後尾に伴走させると、それだけ規制区間が長くなつて一般通行車両の交通の妨げとなるばかりでなく、中には低速車であるスイーパーと標識車との間に通行車両が割り込んで事故の原因となることもあり、スイーパー単独による作業が望ましいのである。

(3) 被告は、スイーパーによる前記清掃方法及び規制方法等につき、警察とも協議の上でこれを実施しているのであつて、その方法につき安全配慮義務に欠けるところは何ら存しない。

(三) 原告は、スイーパーによつて巻き起こされた砂塵の中に入ると「一寸先も見えぬ状態」あるいは、「目の前が真つ暗の視界ゼロの状態」であり、また、スイーパー自身も「猛烈な土砂煙を立て自らもその中に埋没してしまい外部からは車両の一部すら認識、識別できなくなる」ような状態であつた旨主張している。しかし、右表現は、以下に述べるように、全く事実に反する過大な表現である。

(1) スイーパーの運転手金谷及び助手山口は、本件の路面清掃作業を行うにあたつて、前述のようにバツクミラーにより後方に巻き上がる砂塵の状況を確認しているが、その時の砂塵の状況は、決して通行に支障をきたすようなものではなく、到底原告の主張するような砂塵の状況ではなかつた。

(2) 金谷は、本件事故当時、後方でブレーキの音を聞いた際、バツクミラーで後方を確認しているが、その時、約二五メートル後方にワゴン車が急停止したのを見ており、その車種までも確認できた。また、山口が助手席の窓を開け、体を乗り出して後方四〇ないし五〇メートルにワゴン車が停止しているのを確認した際、ワゴン車の手前、後方とも見通しは良く、目につく砂塵はなかつた。

(3) また、本件事故の実況見分の結果によれば、未清掃区間においてスイーパーによる通常の作業をしたところ、全く砂塵が舞い上がらなかつたため、警察からの指示で、通常は清掃しない中央分離帯に極く近い部分までガツターブラシを入れて清掃したところ、ようやく濃い砂塵が発生したので、最も多く砂塵が発生した地点においてスイーパーの視認限度を見分したところ、スイーパーの後方一五六・八メートル離れた地点までは十分スイーパーの存在を認識できた。

(4) さらに、本件事故直前には、スイーパーの直後を走行していた車両が砂塵に巻き込まれることもなく、走行車線へ車線変更して安全に通過しているのであつて、このことは、後方車両からも十分スイーパーの存在を認識できたことを示している。

(5) 被告は、昭和六一年四月一日、融雪後の二回目の清掃作業において散水車を先行させなかつた場合にスイーパーから発生する砂塵の状態を確認するための実験を行つた。その際、本件事故直後の実況見分と同様に、スイーパーを中央分離帯側へ接近させ通常清掃しない部分をも清掃したが、本件事故現場付近はもちろんのこと、比較的砂塵の発生し易い道路構造であるセパレート部及び橋梁部においてさえ、スイーパーを後方から視認することは十二分にできたのであり、交通に支障を生じるような砂塵は全く生じなかつた。

(四) 以上のとおり、本件事故の際に、原告が主張するような本件スイーパーから生じた砂塵による「真昼の暗黒」は生じておらず、本件事故の原因は、専ら事故当事者らの車間距離不保持、前方不注視等の安全運転義務違反によるものである。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  原告が昭和五九年三月二九日午前九時三四分頃、原告車を運転して本件事故現場を走行中に事故が発生したこと、本件事故当時、スイーパーが本件事故現場の追越車線上で清掃作業をしていたこと、本件事故は三台の車が二重衝突したものであること、前回の清掃作業に散水車を先行させたことは当事者間に争いがない。

二  被告は、本件の中国縦貫自動車道の利用関係は公法上の法律関係であるから、原告主張の債務不履行責任はない旨主張するので判断する。

本件道路は、国土開発幹線自動車道建設法、高速自動車国道法、道路整備特別措置法等の諸法規に基づき建設された高速自動車国道であり、その管理者は建設大臣と定められ、建設大臣は被告をして高速自動車国道の新設又は改築等を行わせ、料金を徴収させることができるとされ(高速自動車国道法六条、道路整備特別措置法二条の二)、この場合に被告は当該道路の維持、修繕及び災害復旧を行い(道路整備特別措置法四条)、道路管理者たる建設大臣に代つて同法六条の二所定の権限を行使するものとされているほか、被告の処分等に対しては行政不服審査法による審査請求をすることができ(同法二九条)、被告が徴収する料金についても、その額、徴収期間、国税滞納処分の例による強制徴収に関して規定されていること(同法一一条、一四条、二五条、道路法七三条一項ないし三項)からすると、本件道路の利用関係について公法上の法律関係の側面があることは否定できない。しかし、このように公の営造物である本件道路の利用関係について公法的規制を加えている本来の目的は、それが公の行政として公共の福祉と密接な関連性を有しているためであると解され、しかも、本件道路の利用の実体は私人が事業主体である道路運送法上の自動車道事業と何ら差異はないことからすると、本件道路の利用関係は私法関係に属するというべきであり、ただ、公共の福祉を理由とする特別の定めがある限りにおいて私法関係の規定の適用が排除され、公法関係になると解するのが相当である。この点につき、本件道路については、高速自動車道の管理者側が道路通行者の安全確保に関して負担する義務について、公法上特別な規定は存しないから、この点に関する私法上の通行契約に基づく安全配慮義務は排除されていないというべきである。そうすると、被告は原告に対し、私法上の通行契約に基づく安全配慮義務を負うものと解するのが相当である。

三  そこで、本件事故発生について、被告に安全配慮義務違反があるか否かについて判断する。

前記一の争いのない事実に、成立に争いのない甲第一、第二号証、第三号証の一ないし一八、乙第六、第七号証の各一ないし三、第八号証の一ないし五、第九ないし第一一号証、原本の存在及び成立に争いのない甲第七号証の三、四、第八号証の四、五、乙第一五号証、証人金谷隆重の証言により成立の認められる乙第一ないし第五号証、証人益田正邦の証言により成立の認められる乙第一二ないし第一四号証、ビデオテープを再生した映像を撮影した写真であることに争いのない甲第一〇号証の一ないし三八、第一一号証〇一ないし一〇二、第一二号証の一ないし一九、第一三号証の一ないし二〇、証人黒田弘子、同山田和義、同金谷隆重、同山口鉄也、同滝本忠義、同西山彰則、同山本延雄、同棚瀬興三、同益田正邦の各証言及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

1  原告は、昭和五九年三月二九日午前八時頃、原告車を運転して中国縦貫自動車道を西進し、新見インターチエンジ付近を通過して東城インターチエンジ方面に向かい、本件事故現場付近に差し掛かつた。その当時、天候は極めて良く、視界は良好であつた。

2  本件事故現場は、山間部のほぼ直線の緩い上り坂の途中であり、中央分離帯(ガードレール)によつて上り線と下り線とに区分されている。本件事故現場付近の下り線側の道路の構造は、別紙6の〈1〉記載のとおりであり、中央分離帯側の路肩部分のアスフアルト舗装とコンクリート舗装の境目では、場所によつて一センチメートル程度の段差のある部分もあるが、本件現場付近の下り車線の右路肩部分は上り車線の中央分離帯の所に側溝があるため、特に塵埃が滞留し易い構造にはなつていない。また、本件事故現場付近の道路両側は、山の斜面となつており、道路に近い部分は草地になつている。本件事故当時、本件事故現場付近の下り線における交通量は、一日八〇〇〇台程度であり、制限速度は時速八〇キロメートルであつた。

3  原告車が本件事故現場付近に差し掛かつた際、原告車の前には山田車(普通乗用自動車)が走行し、山田車の前には黒田車(ワゴンタイプの普通貨物自動車)が走行していた。黒田車は、当初走行車線を走行していたが、前方に低速車を発見したので、追越車線に進路変更して時速九〇ないし一〇〇キロメートルでそのまま走行していたところ、進路前方を走行していた大型貨物自動車の後部約二五メートルにまで追い付いたので、時速七〇ないし八〇キロメートルに減速した。なお、山田車と原告車も走行車線上の右低速車を避けるため、黒田車に引き続いて追越車線に進路変更し、山田車は黒田車の五〇ないし六〇メートル後方を、原告車はさらにその後方をそれぞれ走行していた。

4  本件事故当時、本件スイーパーは、金谷が運転し、山口が助手としてこれに同乗し、下り車線の追越車線上を時速三〇ないし三五キロメートルで走行しながら、中央分離帯側レーンマーク(白線部分)の外側約三〇センチメートル付近までのアスフアルト舗装部分の路面をスイーパー備え付けの散水装置から路面に散水しつつ、スイーパー備え付けのブラシを回転させて清掃していた。その際、本件スイーパーの前に散水車を先行させたり、後に標識車を伴走させたことはなかつた。本件スイーパーが、本件事故現場付近を通りかかつた際、路面上の塵埃をブラシで掃き寄せる清掃作業に伴つて、本件スイーパーの周辺にある程度の砂塵が上がつていた。その頃、黒田車の前方を走行していた前記大型貨物自動車が本件スイーパーに追い付き、追越車線から走行車線に進路変更した。

5  黒田車は、前記のとおり、右大型貨物自動車の約二五メートル後方を追従していたが、右大型貨物自動車が進路変更した直後にその前方にいた本件スイーパーを発見し、急制動の措置を採つた。その結果、黒田車はその車体後部をやや左に振りながら、本件スイーパー後部の間近で停止した。その直後、山田車が黒田車に追突し、さらにその直後、原告車が山田車に追突した。

6  本件スイーパーは、高速道路の路面清掃を目的として製作されたもので、その構造は、別紙1、2記載のとおりである。本件スイーパーは、車体の左右にガツターブラシ各一個、車体後部にメインブラシ一個、車体前部左右に散水ノズル各一個、ガツターブラシにも散水ノズル各一個が設置されており、本件のように中央分離帯側を清掃する場合には、スイーパーを前進させながら右側のガツターブラシを左回転させて路面上の塵埃をスイーパーの車体の下に掃き込み、その掃き込まれた塵埃をメインブラシでコンベアに掃き上げ、スイーパー内のホツパー(収塵庫)に収容する構造になつている。そして、右作業中、車体前部右側のノズルから散水して予め塵埃に湿り気を与え、さらに、右側ガツターブラシの五個のスプレー式のノズルから散水して湿り気を与える。右各散水装置からは、一分間に合計一二リツトルが散水され、車体前部からの散水が四、ガツターブラシからの散水が六の比率である。この散水装置は、運転手席のスイツチで作動、停止を操作するが、水量の調節はできない。本件当時、右散水装置は稼働していた。なお、走行車線左側を清掃する場合には、左側のガツターブラシ、左側の散水装置とメインブラシを稼働させる。スイーパーによる清掃作業の具体的状況は、別紙5記載のとおりである。

7  スイーパーから生じる砂塵の約七〇パーセント以上はガツターブラシからのものであり、残りがメインブラシからのものである。ガツターブラシからの砂塵は、その大部分が一旦はスイーパーの進行方向に出てスイーパーの進行に伴いスイーパーの横を通つてスイーパー後部に流れ、残りの一部がスイーパーの下に入り、スイーパーの下に入つた砂塵の多くがメインブラシの直前に設置されているゴム製のフラツプ(垂れ幕状のもの)に遮られて再びスイーパー後方からスイーパーの側面に出てくる。このため、メインブラシから出る砂塵の量はわずかである。

8  本件スイーパーの車体は黄色であり、車体の後部には、別紙2ないし4記載のとおり、後続車に知らせるための標識装置が設置されている。この標識装置の最高部は、路上三・一八五メートルであり、この最高部の中央部付近に後方から視認できるように黄色の点滅灯が二つ備え付けられ、その左右にも黄色の回転灯が一つずつ設置されている。また、右点滅灯、回転灯の下部には、別紙2記載のとおりの配置で緑色の地に黄色の文字で「作業中」と表示され、その下部には、青色の地に黄色の矢印が表示されて、後続車の進路を指示している。なお、別紙図面2ないし4には記載されていないものの、本件スイーパーには、右「作業中」の表示の左右にも赤色の点滅灯が一つずつ設置されていた。

9  被告の広島管理局新見管理事務所(以下「新見管理事務所」という。)は、本件事故前の昭和五九年三月一三日、スイーパーによる清掃作業を実施したが、その際に初めて散水車を先行させた。これは、その直前の冬期が例年にない豪雪でチエーン規制も例年になく多かつたことから、路面が削り取られ、その粉塵が路上に多量に堆積し、中央分離帯側のレーンマーク(白線)が一部見えないような状態であつたためである。右清掃作業後、本件事故までの間に降雪日が三日間あつたが、この間に粉塵発生の主な原因であるチエーン規制は実施されていない。

10  被告は、昭和五六年四月、その管理する道路の清掃作業につき、維持管理要領(清掃編)を制定した。右維持管理要領によれば、被告の管理する道路における路面清掃は、安全性及び能率の面から機械清掃を原則とし、本線及びランプウエイの右側路肩とその周辺部は、「路面清掃A」としてスイーパーを用いて清掃する旨規定するとともに、清掃作業の時期及び方法については、積雪寒冷地における道路においては、融雪期に多量の塵埃等が発生するので注意を要する旨規定している。さらに、右維持管理要領によれば、スイーパーによる路面清掃作業は原則としてスイーパーの単独作業とするが、作業において特に必要な場合には、標識車を用いるなど後尾の安全対策を図る必要があり、また、スイーパーによる清掃は、堆積した塵埃等をブラシにより掃き寄せる際、ほこりが舞い上がるため、道路状況や沿道状況等に応じ防塵処理を行うものとし、防塵処理については、原則としてスイーパーの散水設備によるが、塵埃等が非常に多くスイーパーの散水設備では不十分な場合には散水車により散水した後、清掃する必要があり、「清掃作業A」の頻度については、交通量が一日当たり五〇〇〇台ないし一万台の道路の中央分離帯側は、三週間に一回と規定されている。

11  被告は、昭和五七年二月一六日、本件スイーパーを道路維持作業用自動車(道路交通法七五条の九第二項、同法施行令一四条の二第一号)として岡山県交安委員会に届け出た。

12  被告は、中国縦貫自動車道の道路清掃を道路清掃会社に請け負わせ、右維持管理要領等の作業実施基準に従つた清掃作業を行わせていた。本件事故現場は、新見管理事務所が管理し、本件スイーパー一台、散水車二台、除雪車六台を保有していた。

13  新見管理事務所においては、本件事故当時、同事務所の維持管理担当の技術助役が、週に三、四回の割合で道路巡回をして路面、法面等の道路状況を把握していたが、その際に路面の塵埃等の堆積状況を確認した上で、スイーパーによる清掃作業の実施時期や、スイーパーの前に散水車を先行させるか否かを新見管理事務所長と相談して決定していた。新見事務所の管内では、スイーパーの前に散水車を先行させたのは、昭和五九年三月一三日に実施された前回の清掃作業が初めてであつた。また、新見管理事務所管内では、本件事故時までに、スイーパーによる清掃で舞い上がつた砂塵が原因で事故が発生したことはなく、右のような内容の苦情が同事務所に寄せられたこともなかつた。

14  本件事故発生日の前日、前記技術助役は、通常の道路巡回を実施したが、路面上の塵埃の量が普段と同様であつたことから、新見管理事務所長と協議のうえ、本件事故当日の清掃作業はスイーパー単独で実施することを決定した。そして、本件事故当日、中国縦貫自動車道新見インターチエンジから北房インターチエンジ寄りの下り線の本線上に設置された可変標示板に「新見・東城間低速車作業中」と電光標示し、本件スイーパーが本件事故現場付近の路面清掃作業を実施していることを一般ドライバーに知らせる措置を採つた。また、当日の清掃作業の開始前、前記技術助役は本件スイーパーの乗務員である金谷、山口に対し、清掃作業中に砂塵が生じて交通に支障が生じるような状況になつた場合には、直ちに清掃作業を中止するよう注意を与えた。

15  金谷及び山口は、本件事故当日、本件スイーパーの貯水タンクを満水にした上、午前八時五〇分頃、新見管理事務所を出発し、新見インターチエンジから東城インターチエンジに向けて本件スイーパーによる清掃作業を実施した。この清掃作業に際しては、スイーパー備え付けの散水装置、標識装置、散光式警光灯をそれぞれ作動させていた。ところで、本件スイーパーの実用清掃速度は、時速三〇キロメートル程度に設計されているが、本件事故当時も同様の速度で清掃作業をしていた。スイーパーから発生する砂塵の状況については、運転手が左右のバツクミラーで後方を確認するとともに、砂塵の量が多いと判断した場合には、助手に指示して助手席の窓側から顔を出して後方を確認させる方法が採られている。また、スイーパーによる清掃作業の場合、粉塵のたまり易いトンネル開口部、橋梁部分では砂塵が発生し易い。本件事故当日も、本件事故現場手前の新見トンネル西口の開口部で、緊急時に上り線と下り線の通行車両が相互に乗り入れるため中央分離帯がない部分を端まで清掃したところ、ある程度多量の砂塵が発生したので、直ちに助手に後方の状況を確認させたところ、右トンネルの開口部が見えたのでそのまま作業を続行した。本件事故現場に差し掛かるまでに、ある程度多量の砂塵が発生したのは、右トンネル開口部の一箇所だけであつた。

16  本件事故当時、本件スイーパーに乗務していた金谷及び山口は、いずれもバツクミラーで後方を確認しながら清掃作業をしていたが、本件事故現場付近で黒田車の急ブレーキ音を聞いたことから、金谷は運転席側のバツクミラーで後方を確認したところ、若干砂塵は発生していたが、黒田車の白い車体ははつきり見えた。また、山口も直ちに助手席側の窓から身を乗り出して後方を確認したが、多少砂塵は発生していたものの、黒田車を見ることができ、その後方にも砂塵は見えなかつた。

17  本件スイーパーから生じる砂塵の程度を調べるため、警察官は本件事故当日の午後四時三〇分頃、本件事故現場に近い中国縦貫自動車道の本件現場付近(下り線二四一・四キロポスト付近)でスイーパーを実際に走行させる実況見分を実施した。その際、本件スイーパーにより、中央分離帯側の清掃として通常実施しているアスフアルト舗装部分の清掃作業を行つたが、あまり砂塵が生じなかつた。このため、立会警察官がガツターブラシの入る地点を通常より中央分離帯側に寄せるよう指示したので、中央分離帯側のガードレールから二〇センチメートルの箇所まで近付いて清掃作業をしたところ、ある程度の砂塵が生じた。この最も砂塵が生じた際、スイーパーの後方一六五・八メートルの地点において、通常の方法で前方注視しておれば、本件スイーパーの上部にある黄色の回転灯などが確認できる状況であつた。なお、右実況見分の際、本件スイーパーのメインブラシが新品の物に交換されていたが、一般にスイーパーのメインブラシは、ブラシの毛足が長い程、メインブラシから生じる砂塵の量がやや増える。

18  被告は、本件訴訟が提起された後の昭和六一年四月一日、被告訴訟代理人がスイーパーから発生する砂塵の程度を確認するため、スイーパーの清掃作業の実験を行つた。右実験に先立つて、同年三月一三日に散水車を先行させたスイーパーによる清掃作業を実施した上、右実験日当日の午前九時四〇分から同日午前一〇時三五分までの間、中国縦貫自動車道神郷パーキングエリアから東城インターチエンジまでの下り線の追越車線をスイーパー単独の清掃作業を実施し(神郷パーキングエリアから哲西バスストツプまでの約九・一キロメートルの間は新品のメインブラシで、哲西バスストツプから東城インターチエンジまでの約八・三キロメートルの間は本件事故当時と同程度の毛足の長さのメインブラシを使用した。)、その様子をビデオカメラで撮影した。右実験中、通常どおりの範囲を清掃した場合には、あまり砂塵が生じなかつたことから、意識的にスイーパーで通常の清掃範囲より中央分離帯寄りを清掃したが、その際にはある程度砂塵が発生したものの、後方から見てスイーパーが隠れるようなことはなかつた。また、粉塵の堆積し易いセパレート部分(上り線と下り線とが中央分離帯で分けられているのではなく、完全に別個の道路となつている部分)や橋梁部分では他の箇所よりもより多くの砂塵が出た。なお、右撮影したビデオテープを再生した映像の方が肉眼で見た砂塵よりも濃く写つていた。

右認定事実によれば、本件事故現場付近の下り線の追越車線中央分離帯側は、その道路構造上、粉塵が堆積し易い場所ではなく、本件スイーパーは散水装置を作動させながらガツターブラシ、メインブラシを回転させて通常の清掃範囲を清掃していたものであり、しかも、被告の維持管理要領においては、本件事故現場付近の中央分離帯側は三週間に一回の頻度でスイーパーによる清掃を実施することになつているが、本件事故当時は、本件事故発生日の一六日前に散水車を先行させたスイーパーによる清掃を実施しており、その後、本件事故日までの間に本件事故現場付近に多量の粉塵等が堆積するような気象状況、道路規制等は存在しておらず、本件事故の前日も被告の職員が本件事故現場付近の道路を巡回して塵埃等の堆積状況を確認した上、スイーパー単独の清掃作業を決定しているのであり、また、本件事故当時、本件スイーパーは、低速車が作業中であることを後続車に知らせる標識装置を点灯、作動させていたことからすると、本件事故当時、本件スイーパーがある程度の砂塵を発生させていたことは認められるものの、これによつて後続車が通常どおり前方注視をしていても本件スイーパーを発見できない程度の多量の砂塵を発生させていたものとは認められない。

この点につき、本件事故の当事者らは、いずれも本件スイーパーが多量の砂塵を発生させて前方注視を不可能にしたことが本件事故の発生原因である旨証言し(黒田、山田)、あるいは警察官による実況見分の際に供述している(黒田、山田、原告本人)が、右各証言及び各供述は、いずれも信用できない。

そうすると、本件スイーパーが後続車の前方注視を不可能にする程の多量の砂塵を発生させたことを前提とする原告の本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく理由がない。

四  よつて、原告の請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 將積良子 安原清蔵 遠藤邦彦)

別紙1 HF96K全体透視図

〈省略〉

別紙2 豊和ウェインストリートスイーパHF96K型 全体外観図

〈省略〉

別紙3 HF96K電光車載標識装置取付

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別紙4

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別紙5 路面清掃車概要

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別紙6 〈1〉 土工部

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〈2〉 橋梁部

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〈3〉 セパレート部

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〈4〉 セパレート部

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